-RADIO EVA- ①
「EVA T BREAK」とは、EVA Tシャツに関わったスタッフに、EVA Tシャツに込めた熱い思いや、EVAの個人的な体験を語っていただく特集企画。
第一回目の記念すべきゲストは、EVANGELIONの公式ブランドとして、商品作りからイベントの仕掛けまでプロデュースしている、RADIO EVAの武藤祥生(むとうよしお)さんです。
![]() RADIO EVAクリエイティブ・ディレクター 2008年にスタートしたプロジェクト RADIO EVAにおいて、マーチャンダイジングをはじめ、プロモーション、アートディレクションなどを幅広く手がける。生活に溶け込むEVA GOODSを軸に、センスフルで一般的なアニメグッズとは一線を画した商品とライフスタイルの提案を行っている。EVAのプロダクツをキャラクターを使わずに、そこにある空気感やキーワード、色で表現する手法をさきがけた。 |
- まず、最初に、武藤さんに肩書きをつけるとしたら何でしょうか?RADIO EVAの中で、中心的な存在として、プロデュースから、ディレクション、果ては、デザイナーに近い仕事されていますが、どれが一番近いのでしょうか?
武 そうですね。一つに絞るとしたら、やはりクリエイティブディレクターが一番近いと思います。
- でも武藤さんの仕事の幅としては、ディレクターの枠では収まっていませんよね(笑)でも、そういう幅があるからこそ、これまで多くのプロジェクトに関わってこられてますし、(※1)商品づくりについても、面白いアプローチもたくさんしてきたと言えると思います。それでは、まずは、そのRADIO EVAについてご説明いただけませんか。
※1 *RADIO EVAがこれまで関わった主なプロジェクト等は以下の通り 【ZOZOTOWN 、SHIBUYA HARAJUKU EVA PROJECT】 国内最大級のファッション通販サイト ZOZOTOWN とのコラボレーション。渋谷と原宿に点在するファションブランドとの都市型イベント 【各種スタイリング】 2011年 JINS のキャンペーン用イラストに登場した5人のキャラクターの普段着をテーマにスタイリング。それ以降、Columbia、SEGA、K・SWISS、など様々なクライアントの版権イラストのブランドコーディネイトやスタイリングに携わる。物語から切り離したところでキャラクターの日常やライフスタイルをイメージするクリエーション。 |
武 RADIO EVAはEVAの公式のファッションブランドでもあるのですが、捉え方としては、EVANGELIONをモチーフとした、幅広い物づくりの新しいプロジェクトと思って頂いた方が正確だと思います。具体的には、単純なキャラクター商品としての物づくりではなく、EVANGELIONが持つ世界観や、記号性などの情報と、商品やブランドが持つファッション性や機能性を融合させることによって、一時的な消費物ではなく、長く耐えうる商品を作ろうというプロジェクトですね。
- なかなか難しいテーマですね。
武 すごく難しく聞こえるんですが、単純にいうと、EVAをモチーフに、大人が長く使えるものを作りたいという事です。
- それなら、すごくわかります(笑)ところで、そもそも、RADIO EVAが生まれるきっかけはなんだったんですか?
武 RADIO EVA誕生のきっかけは、知人を通じてEVAの版元さんから、EVAの新しいブランドを立ち上げたいということでお話を頂きました。お話を頂いてすぐに、どうせやるなら、新しい切り口でやりたいと思いました。ですから、ブランドを立ち上げるというより、物作りのプロジェクトを立ち上げるつもりでやってきました。
- RADIO EVAという名前はどこから思いつかれたのですか?
武 私が元々、ラジオのディレクターをしていたという事もあるのですが、新しい物づくりの要素として、作り手とユーザーの双方向性という事を意識していました。その方向性を踏まえつつも、最近のWEBでの距離感ではなく、ラジオの距離感でユーザーとコミュニケーションしたいなと思って・・・
- 確かに、私も深夜ラジオ世代なので感じるんですが、RADIO EVAのHPは深夜ラジオ的な匂いのする投稿ネタのコーナーとかがあるんですよね。武藤さんも世代的には深夜ラジオ世代でしょう?
武 勿論です。
- わかりにくい人のために教えてほしいのですが、そのラジオの距離感というのは、具体的に言うとどういう事でしょうか?
武 WEBは、メディアとして地域性は関係ないのですが、ラジオというのは電波が届く範囲だけだったり、時間が決まっていたりという、送り手と受け手が、少し不自由な関係にあります。その関係性を不自由なものとして捉えるのではなく、それだからこそ濃密な関係になるというか、こちらが発信したものを、知っている人が、そこにチューニングをして、じっと耳をすまして聞いてくれているような物になればいいなと思っています。
- そういう意味ではローカルFMっぽい感じですかね。
武 まさに、そうだと思います。RADIO EVAのウェブサイトもあるのですが、そこで募集しているお題に対して投稿をもらったら、それを生のままで出すんじゃなくて、DJの役割の人が咀嚼をしてから発信をしていく、そういう、やりとりがラジオ的な距離感ではないかと思っています。
ある意味、現代的なスピードではなく、もう少し緩やかで、お互いが大人の距離を保っているという感じでしょうか。
- なるほど、なんとなくわかりました。なんとなくですが…(笑) さて、実際のプロジェクトについてお聞きする前に、武藤さんの私的なEVA体験というのをお聞きしたいと思います。まずは、放送については、リアルタイムでご覧になりましたか?
武 リアルタイムではなく、深夜の再放送ですね。大学生の時に、アルバイトをしていたバーで、暇な時に、たまたまEVAをやっていて、何話か観たのですが、なんだか面白いアニメだなあと思ってました。
- 観た時のインパクトはありましたか?
武 当時は、世界観や謎とかキャラクターにはあまり惹かれなかったんですが、画面全体から発するカッコよさに惹かれましたね。カットインしてくる場面だとか、音楽とシンクロした画面なんかが、今まで見たことのない気持ちよさを感じましたね。そういう意味では物語の世界に入り込むというより、少し引いて、映像の作りとかを観てましたね。
- それでは、実際にEVAを意識して観るようになったのは、RADIO EVAのプロジェクトを始めてからですか?
武 そうですね。RADIO EVAを立ち上げる時点で、テレビ版全話や旧劇場版をちゃんと見直し、その他に、『新劇場版:序』のDVDが手元にあって、そのDVDをほぼ1日中かけっぱなしにしてましたね。
- 1日中かけっぱなし?それは何のためにですか?
武 何が面白いか、何がひっかかるか。それは話の内容というより、画面自体で目に入ってくる物で引っかかってくる物を、まずはピックアップするという作業です。例えば、Tシャツのデザインひとつとっても、作業としてはオリジナルの情報をエディットしていくわけですが、キャラクターそのものというより、そこの画面から来る空気感を情報として抽出し、それをデザインに落とし込みたいと思ってやってきました。
- なるほど。つまり、作品の世界に深くコミットするのではなく、もっと、直截的に画面から発せられる情報を分解して、再構築をするというアプローチをしているという事ですか。
武 そうです。特に、『序』の時は、作品自体が“REBILD”という事がキーワードなったので、僕らなりに分解したり再構築したりしようと思って始めました。
- それはEVAだからできるアプローチだと。
武 そうですね。それを許してくれる物語だと思いましたので。
- そういう意味では、RADIO EVAのTシャツのデザインにおいても、分解したり、再構築したりというアプローチが多いと思うのですが、そういう作業を通じて、EVANGELIONの特殊性というのは感じますか?
武 何よりも、作品そのものがすごくスタイリッシュでおしゃれだなあと。それにつきますね。たまに、他のアニメ作品でRADIO EVA的なアプローチはできませんかという相談があります。このような試みは、一部はできると思うのですが、EVAみたいに、作品全体にわたって同じようなアプローチができるわけではないと思います。
- 確かに、なかなかRADIO EVA的な幅の広い、分解と再構築というのは他の作品では見ませんね。そういう意味ではかなり特殊な作品ですよね。そのようなアプローチの中でも一番面白いと感じた点はありますか?
武 作品の情報として非常に濃密なものがあって、これをどういう切り口でやっていけば良いのかという事を色々考えてきました。その中で、序のDVDをかけっぱなしで見ていた時に、非常に深いレベルで、”キャラクター=色”であるという事と、画面から発せられる空気感をつかんで行こうと決めた時に、これで、自分がやる必然性というか、突破口が見えたと思って面白くなりましたね。あとは、それらの情報をどうエディットして、ファッションだとか、スタイルに落とし込むのかという事を考えていました。
- 他に、EVAならではの点というのはありましたか?
武 これは、ちょっと違うかも知れませんが、EVAならではというより、庵野さんの初期監督作品の「トップをねらえ!」とかの他の作品、ある意味、EVAの原点のような作品を観てると、アニメの根源的な表現、情報の出し入れを感じて、デザインのヒントになりました。
EVAを色で表現することを思いついた武藤さん。続いては実際に手がけたTシャツのお話です。PART②へ